「カレル・チャペック旅行記コレクション オランダ絵図」

オランダ絵図 カレルチャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)
- 作者: カレル・チャペック
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2010/09/08
- メディア: 文庫
その存在は知っていましたが、始めて読みました、このシリーズ。おもしろかったですね。ほんわかとした独特のタッチの挿絵と、これまたのんびりしているようで、実は対象物の本質を的確に捉えた文章。そして、思わずメモしてしまった詩的な表現の一文。いっぺんにファンになってしまいました。
カレル・チャペックさんは十九世紀末にチェコで生まれ、二十世紀初頭に活躍したジャーナリスト・エッセイスト・そして小説家でもある方。どこかで名前を聞いたことがあるなと思ったら「ロボット」という言葉を作り出したことで有名な人でした。ナチズム批判をしたことでも知られていますね。
でも、この本を読んだ限りではそんなイメージとはちょっと違った感じを受けました。なぜでしょうね。世界ペンクラブ大会出席のため(そう言えば、今年は日本で開催されてました、この大会)に訪れたオランダの街並みや人々の姿を優しくそして鋭く描き出している。彼が見て、そして描いたのは百年前のオランダの姿だが、古さを全く感じさせない。読んでいると、きっと今でもそのままなんだろうと思ってしまう。時代を超えた、その国の文化や風俗の本質を的確に捉えているからだろう。
オランダの街並みを描いた部分。運河を掘り、土地を自ら造り出していった。そんな風景をチャペックさんは「人間の歴史は曲がりくねっている。しかし人間の作品は直線的である。」などと表している。
海辺で海水浴を楽しむのがオランダ人の好きな休みの過ごし方。街や農地が直線で作られている中、ゆるやかな曲線を描く浜辺の眺めをきっと楽しんでいるのだろうと、オランダの人々の心の中を明らかにしていく。そして自らも海を眺めて「海はその日、世界の地質史の中でこれまで三回しかなかったほど美しかった」と、心から彼らに共感していくのだ。
土地が少ないゆえに家も小さく、部屋も狭いのがオランダ。だが、その国は何世紀も続くネーデルランド絵画を生み出したところ。その秘密をチャペックさんは「オランダの画家が、ティツィアーノのように立ってではなく、ミケランジェロのように足場に上がってでもなく、座って描いたということである」だと見抜いたのだ。
と、こんな感じで、「いい表現だなぁ」と読みながら唸ってしまう文章が続いているのだ。挿絵が多いせいもあるけど、おもしろくて一気に読み終えてしまった。そして、他の作品も全部読んでみたい!と、ちょっと高揚しながら思ったのだった。ぼちぼち、読んでいくことにしよう。
ということで、これは文句なくお薦めの一冊でした。

イギリスだより―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)
- 作者: カレル チャペック
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/01
- メディア: 文庫

北欧の旅―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)
- 作者: カレル チャペック
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/01/07
- メディア: 文庫

スペイン旅行記―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)
- 作者: カレル チャペック
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/03
- メディア: 文庫

チェコスロヴァキアめぐり―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)
- 作者: カレル チャペック
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/02
- メディア: 文庫
この記事へのコメント
(^^)/
まいどどうもです!
この絵、対象の特徴を的確に捉えていて、見かけによらず鋭いかも。でも、やっぱりホンワカしますね。
カエルさんへ:
翻訳も上手なのでしょうが、でもきっと原文もこんな感じなのでしょう。芯のある柔らかさ。まさに”アルデンテ文体”と呼べるでしょう。